北朝鮮に先制攻撃か 金正恩氏の斬首作戦から変更 統帥権者・トランプ氏からの命令待つ米韓軍

 下記は、2017.7.8 付の【久保田るり子朝鮮半島ウオッチ】です。

                       記

 北朝鮮大陸間弾道ミサイルICBM)試射で緊張が高まった翌5日朝、米韓両軍は韓国東海岸で「斬首作戦」の一環のミサイル発射合同訓練を実施した。訓練では斬首作戦に使う長距離空対地ミサイル「タウルス」のPR動画も公開、仮想の北朝鮮人民武力部を撃破する刺激的な映像で北朝鮮を牽制している。北朝鮮金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は斬首作戦を極度に恐れているという。そのため公開行動を縮小したとされるが、朝鮮半島は“挑発には挑発で”の危険なサイクルの様相となってきた。

北は情報収集に血眼 気が気でない斬首作戦

 韓国軍合同参謀本部の発表によると、5日の訓練で動員されたのは在韓米軍の地対地ミサイル「ATACMS」と韓国軍の「玄武2A」だった。標的が「敵の指導部」だと明らかにし、斬首作戦であることを明言した。

 「玄武2A」は韓国開発の射程300キロの弾道ミサイル、「ATACMS」は1発でサッカー場が粉砕できる能力を持つ。この米韓ミサイルの同時発射訓練を行った。韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相は国会で「北朝鮮の弾道ミサイル挑発に対し米韓が弾道ミサイル訓練を行ったのは今回が始めて」と述べている。

 金正恩氏は「斬首作戦」に神経をとがらせているという。韓国の情報機関、国家情報院が国会に報告したところでは、金正恩氏は今春から斬首作戦を恐れて公開活動を約3割減らしたという。金正恩氏は「米軍が偵察しているときは、活動も明け方に行い、地方視察も専用車のベンツに乗らず、幹部用のレクサスに乗っている」といい、「北朝鮮は斬首作戦の情報収集に血眼だ」としている。

 最近、北朝鮮無人機で韓国を偵察しており、6月初旬に韓国中部で発見された無人機の日本製カメラには、高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備予定基地をはじめ、斬首作戦関連の500枚以上の写真が写っていた。

ニセ情報も流す米心理戦

 韓国軍と在韓米軍が斬首作戦を共同軍事訓練などで本格化させたのは昨年からだが、在韓米軍は斬首作戦に合わせ兵器配備も変更させている。

 最近、配備されたのは韓国中部から北朝鮮平壌の重要施設を狙える長距離空対地ミサイル「JASSM」だ。韓国の有力紙、朝鮮日報によると、中西部の米空軍第8戦闘航空団に配備されたJASSMはF16に搭載、平壌を狙えば着弾誤差はわずか2メートル前後という。また同紙によると、米韓の情報当局は平壌出身の脱北者から北朝鮮の支配層や高官の住居となっている平壌のマンション団地などについての位置情報なども収集しているという。

 米軍は世界の紛争地での戦闘で敵の撹乱や戦意喪失を狙った情報戦を仕掛けている。そのなかでも朝鮮半島の心理戦は「作戦計画5030」と呼ばれる。この作戦では北朝鮮指導者の恐怖心をあおるニセ情報も流し、金正恩氏への心理圧迫も狙うという。今春の米韓軍事合同演習では「斬首作戦」に米特殊部隊を参加させたことを米軍はわざわざ発表し、金正恩氏の不安をあおった。

トランプVS金正恩の舌戦

 ICBM発射直後、トランプ大統領はツイッターで「この男は人生でほかにやることがないのか」とつぶやいた。これに金正恩氏が応酬した。

 「われわれの戦略的選択に米国は非常に不愉快だろう」

 「独立節(記念日)のプレゼントは気に入らないだろう」

 「今後も大小のプレゼントを贈ろう」

 こう言って金正恩委員長は豪快に笑った−と朝鮮中央通信が肉声として伝えた。

 米朝トップの応酬は前代未聞のこと。さらに2人は直情的な性格では共通しているだけに“口撃”のエスカレートは情勢を悪化させかねない。

 金正恩氏の挑発にハラを立てたからでもないだろうが、トランプ大統領は6日、「われわれはかなり重大な措置をいくつか考えている」(ワルシャワでの記者会見)と、軍事オプションを強く示唆している。

 CNNなど米報道によるとトランプ大統領は近く、ICBM発射にともなう対北措置を承認する予定で、そのなかには有事対応の戦力増援が含まれるという。韓国軍消息筋は今回の訓練について「北朝鮮ミサイルを先制攻撃する演習と考えて構わない」と述べており、挑発のサイクルが始まっている。

 在韓米軍のブルックス司令官は、同訓練後の韓国軍合同参謀本部議長との共同声明のなかで、「われわれの選択である自制が平時と戦時を区別しているが、米韓同盟の統帥権者の命令があればわれわれはその選択を直ちに変更する」と述べた。事態が戦時と判断された場合、統帥権者はトランプ大統領ということになる。

編集委員 久保田るり子